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彼氏を束縛するためのアプリを開発した理系女子大生【第7話・後編】―シンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

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Case7:彼氏を束縛するためのアプリを開発した女子大生

名前:高桑蘭佳(東京工業大学大学院生・メンヘラテクノロジー代表取締役)

石川県出身。経営者の彼氏を束縛するために「株式会社メンヘラテクノロジー」を立ち上げる。ゆくゆくは、彼氏の会社を買収することを目標にしている。

―前編はこちら―

どうしたら彼氏とずっと一緒にいられるのか

女子の集団が苦手で、ずっと根暗な人生を歩んできた私。そんな私が出会えた、心から大好きだと思える恋人……。

イベント会社を経営している彼の周りには、たくさんの魅力的な女性がいました。私は、「いつか、彼が他の子を好きになるんじゃないか」という不安を抱えて、心のバランスを崩してゆきました。

そして、「もっともっと一緒にいるためには、彼の仕事の一部にならなきゃいけない……」そう考えるようになりました。

そして彼にこう言ったのです。

「仕事が最優先なら、私を社外取締役にしてほしい」

彼はあっけにとられた顔をしましたが、急に経営者の顔に戻り「今のままじゃ無理だよ」と言いました。そして、思いもよらないことを提案してきたのです。

「ひとつ条件をクリアすれば、社外取締役にしてあげてももいいよ」

その条件とは、「自分でも起業をして、彼の会社の社員たちが、取締役にふさわしいと思うサービスを生み出す」というもの。

それは2018年7月のことでした。私は彼氏を束縛するために、起業することを決意したのです。

株式会社メンヘラテクノロジーが誕生

まず、会社を立ち上げるために、起業家を生み出すプログラムに参加しました。そこで高い評価を得ることができれば、出資を受けることができたのです。

私は「彼氏を束縛するために会社を立ち上げたい」という想いを伝え、株式会社メンヘラテクノロジーを設立しました。

そして、歩いた距離で「愛してる」を伝える『愛してるの言葉じゃ足りないくらいに君が好きなので歩く』というアプリや、どうしようもなく病んだときに気軽に利用できるチャット相談サービス『メンヘラせんぱい』を生み出しました。

生み出したのは、どれも「自分が使いたい」と考えて作ったアプリばかり。「彼の仕事の一部になるために、サービスをつくらなきゃ……」彼氏に愛されたいという自己愛でいっぱいだった私は、極めて個人的な理由で、サービスを考え、世に送り出したのです。

自分のためにしたことが誰かを救っている

でも、会社を立ち上げてから、周囲に大きな変化がおとずれました。それは、生きてきて初めて感じた充実感でした。

『メンヘラせんぱい』のテスト運用をはじめたときのこと。私のもとに、恋に悩む多くの女性からの声が届くようになりました。

「彼氏のことばかりを考えていたけれど、自分と向き合えるようになった」

「好きな人とケンカしたとき、メンヘラせんぱいに背中を押してもらった」

自分のためにつくったサービスが、いつの間にか自分と同じように孤独に悩む人々の手助けになっていたのです。

私はふと、誰にも相談できず電話相談を頼り、繋がらなかった夜のことを思い出しました。

「あのときメンヘラせんぱいに相談できていたら、私の苦しみは、少しは和らいだのかもしれないな……」

そして、「選ばれたい」「認められたい」という自己愛に満ちていた自分が、誰かのために何かをしたいと思いはじめていたことに、気づいたのです。

「自分のために作ったサービスが、恋に悩む女性たちを救っているのかもしれない」

実際はまだ、サービスは開始したばかり。彼の会社の社外取締役にはなれていません。

「はやく実績を作って、彼に認めてもらわなきゃ」という焦りはあるものの、私は今、誰かのために仕事をしているという使命感と充実感でいっぱいなのです。

考察:起業の理由も恋愛もメンヘラでいい

すべては自己愛

多くの起業家は「世の中をより良くするため」という、立派な目標を抱えています。一方、らんらんさん(高桑さんの愛称)の起業の理由は、「彼氏を束縛したい」という、とっても自己中心的なもの。

束縛するのは愛があるゆえ。愛がなければ、束縛も嫉妬もしないと思う人もいるでしょう。その逆で、愛があれば、束縛はしないと考える人もいるかもしれません。

「彼氏に向ける束縛は、愛しているから?」

らんらんさんにそう質問してみると、彼女はこのように答えました。

「束縛って、彼に向いてる愛ではなく、自己愛だと思うんです。自分が不安だから、束縛するんです」

自分を愛すること、相手を愛すること

らんらんさんは、これからも、自分を救ってくれるサービスを作り続けたいといいます。そして、取材の最後をこう締めくくりました。

「自分を愛せないと、人は愛せないですよね。でも、自分ばっかり愛していたら、相手からの愛は、もらえないんです」

愛と束縛、それは、表裏一体に存在しているのかもしれません。

 

【今回のゲスト】

高桑蘭佳

石川県出身。東京工業大学大学院生。2018年8月、「株式会社ガイアックス」の出資を受け、「株式会社メンヘラテクノロジー」を設立。2020年1月末、好きな人とケンカしたとき、仕事で嫌なことがあったときなど、つらいときに低価格で利用できるチャット相談サービス「メンヘラせんぱい」をリリース。公式サイトはこちら

筆者プロフィール

毒島サチコ

photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「Menjoy!」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

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