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王子さまに選ばれたかった王子さまの物語【第8話・前編】―シンデレラになれなかった私たちー
毒島 サチコS.Busujima
Case8:カミングアウト出来なかった大学生
名前:智也(22歳/大学生)
神奈川県出身。都内の大学に通う。現在4年生。
同じゼミに好きな人がいるが、告白ができないまま、卒業の日を迎えようとしている。
偽装カップル
昨年のクリスマス。僕は、イルミネーションできらめく表参道を歩いていました。
「うらやましいなぁ」
行き交うカップルをぼんやり眺めながら、無意識にそんな言葉が漏れました。
でも僕は、ひとりで表参道を歩いているわけではありません。大学のサークル仲間の文乃と、予約したレストランに向かっている最中でした。
文乃は「えー、端から見たらうちらも立派なカップルじゃん」と腕を絡めてきます。そして、スマホでイルミネーションを撮影しながら、「今年のクリスマスも、カモフラージュ成功だね!」とウインクしました。
僕はといえば、文乃の姿が写らないように撮影したイルミネーションの写真をインスタグラムに投稿していました。それは、「誰かわからないけれど、一緒にいるのはきっと女性だろう……彼女かな?」とみんなが思うような投稿。「メリークリスマス!」とありきたりな言葉をつけて。
僕たちの姿は、誰が見てもカップルに見えるでしょう。でも……僕たちは、カップルではありません。
「偽装カップル」なのです。
大学卒業へのカウントダウン
「えー、今年も!?」
卒業式まであと3か月ちょっとになった12月のある日……。学食で僕は、仲良しの文乃にあるお願いをしました。
「お願い! 今年もクリスマスは一緒に過ごしてくれ! サークルのやつら、俺が男を好きなんじゃないかって疑ってきているんだよ」
文乃は、「智也と2年連続とかありえないし!」と言いながら、「まぁ、彼氏いないし、ヒマからいいけど。智也のおごりね」と、つぶやきました。
そして、少し声を潜めて「……まだ翔にカミングアウトしてないの?」と聞いてきました。
「してない。っていうか、卒業するまで言わないつもりだって」
文乃は上目づかいで、「うーん、絶対後悔すると思うよ」といつものように言いました。
自分の恋愛感情に気付いた日
僕が男性を好きだと気付いたのは、中学2年生のとき。
同級生の男子たちがこぞってがエロ本に興味を持つ中、僕は女性誌に映るイケメン俳優に惹かれていました。クラスの女子がハマっていた男性アイドルが好きで、女子と話が合ってしまったことから、「智也はゲイ」という噂が流れました。
そのとき僕は、女性というのは男性が好きな生き物で、男性は女性が好きな生き物。それ以外は存在しないと思っていました。
でも、同じクラスの男子が制服から体操服に着替えている姿を見て胸が高鳴るのを感じて、「自分は男が好きなのかもしれない」と思い始めたのです。
でも、その初恋は、脆くも崩れ去ってしまいました。僕は、好きだった男子を、勇気を振り絞って映画に誘いました。
でも、返ってきたのは、こんな心無い言葉。
「智也ってオカマなの?」
そのひと言は、僕の心に大きな傷跡を残しました。
見つけた僕の生き方
それから僕は、自分のセクシュアリティを封じこめようと努力しました。高校生になってから、「俺は女性も愛せる」と自分に言い聞かせて、無理やり女性と付き合いました。
でも、彼女からのキスを拒んでしまい、「智也って、何を考えているかわからないね」とフラれてしまいました。
その後、僕は自分の感情を隠し、生きてきました。
女子から告白されたこともあったのですが、同じように傷つけてしまうのが怖くて、付き合うことはできませんでした。
偽装彼女の誕生
女性の好意を受け止めることもできず、かといって男性が好きだとカミングアウトすることもできない……。年ごろになった友人たちが恋愛を楽しんでいる中、僕はずっと悩みを抱えていました。大学生になった今も、友人たちの話題といえばもっぱら恋バナ。
「智也って彼女つくらないの?」と聞かれるのが煩わしかったので、「遠距離恋愛の彼女がいる」と嘘をついていました。
その辻褄を合わせるために、年に一度のクリスマスイブだけは、「偽装彼女」の文乃と、あたかも彼女とデートをしているような写真を撮って、周囲にバレないように生きてきたのです。
文乃は、すべてを分かったうえで、友達でいてくれました。
でも、大学卒業まで3か月と迫った最近「卒業までに、翔だけには、カミングアウトしたほうがいい」と、しきりに言ってくるようになりました。
僕が好きになった人
翔は、僕が本気で好きになった人でした。一昨年、同じゼミになって以来、2年間の片思い継続中。
ムードメーカーだった翔は、彼女が5年いないという自虐ネタを飛ばしては、飲み会を盛り上げ、男子からも女子からも人気がありました。
大学3年生のゼミ合宿のとき、翔と朝まで将来の夢について語り合いました。「こんなに自分のこと話したのはじめてだよ」と笑いながら大きな夢を語る彼の姿は、とてもかっこよく見えました。
そして、いつしか僕は、翔を親友から恋愛対象として意識するようになっていったのです。
でも翔の恋愛対象は、女性。告白をしても確実に振られることは間違いない――。
好きになった瞬間、失恋が決まっている恋……。
僕は男で、翔も男。
ただ、僕は普通に恋をしただけ。
相手が同性というだけで、気持ちを打ち明けることすら簡単にできないのです。
そして、告白を決意する
「絶対後悔すると思う。智也はずっと自分を隠して生きていくの?」
文乃に何度も言われた言葉が、僕の頭の中でずっと残っていました。
そして新しい年を迎えたころ、僕は翔に告白しようと思い始めていました。
男女の恋愛のはじまりには「告白」というハードルがあります。
でも、同性が好きな僕には「告白」というハードルの前に、もうひとつ「カミングアウト」という大きなハードルを越える必要があります。
卒業まであと3か月。そして卒業したら、もう今までのように翔に会えないかもしれない……。
そう考えて、僕は、翔に告白することを決めました。
後編へ続く
【筆者プロフィール】
愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。
【前回までの連載はコチラ】
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次回:2月29日土曜日 更新予定
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