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バチェラー3で「一番になれるのは私だけ」と鮮烈な印象を残した李起林(イ・ギリム)インタビュー【第14話・前編】ーシンデレラになれなかった私たちー

毒島 サチコ

毒島 サチコS.Busujima

Case15:「一番になれるのは私だけ」というキャッチフレーズで挑んだ女

名前:李起林(イ・ギリム)

通訳・翻訳家。韓国・ソウル生まれ。2017年に留学生として来日。通訳・翻訳家としての仕事をしながら、韓国の有名ミスコンテスト「ミスコリア」にて入賞。Amazon Prime Videoで配信中の婚活サバイバル番組『バチェラー・ジャパン』シーズン3に参加し、キャラクターに注目が集まる。

一番になれるのは私だけ

「一番になれるのは私だけ」というのは、『バチェラー・ジャパン』シーズン3でつけてもらった、私のキャッチコピーです。

視聴者からは、こんなコメントが寄せられました。

「これってキャラなの?」「すごい自信家」

いいえ、決してキャラではなく、紛れもない本心です。でも、最初からこうだったわけではありません。今ではこうして強気のスタンスで生きていますが、私も多くの女性たちと同じく、挫折と選ばれなかった経験を繰り返してきました。

韓国から日本へ

私は、日本が大好きです。きっかけは、高校生のとき、「L’Arc〜en〜Ciel」のhydeさんのファンになったこと。大学で日本について学び、2013年、交換留学生として韓国から京都にやってきました。

美しい街並み、おしゃれなショップやカフェ、親切で優しい人々に触れて、将来「この国で働きたい!」と強く思うようになったのです。

私は子どものころから、望んだ夢はすべてかなえてきました。自分のことが好きだったし、自信もあった。やりたいと思ったこと、好きなことに次々とチャレンジしてきました。日本で働くということも、同じように、当然叶えるべき夢だと思ったのです。

大学を卒業して、日本企業の採用試験に合格し、大阪の会社で働くことになりました。内定をもらった会社では、私はたったひとりの外国人でしたが、異国の地で働くことに迷いはありませんでした。快く送り出してくれた家族に、私はこう宣言しました。

「日本で、すごい人になる!」

何が「すごい」かと問われると答えられないけれど、大好きな日本で働けることに、大きな希望を抱き、自信に満ちあふれていました。

会社という組織の中で

ところが、自信満々で入社した会社は、思い描いていた場所とは違いました。研修中に任される仕事は事務的なものばかりで、自分でなくてもできることだと感じたのです。私は上司に「もっと仕事がしたいです」と率直な想いを伝えました。上司は、驚いた顔をしたあと、苦笑いを浮かべながら言いました。

「まあ、まずは言われた仕事をゆっくり頑張って。期待してるから」

その言葉には暗に、周りに合わせて、言われた仕事さえやればいい、というニュアンスが含まれていました。

そして上司が、こうつぶやく声が聞こえました。

「個性的だなぁ」

「個性的」という言葉ですが、当時の私は誉め言葉と受け止めていました。私はたったひとりの外国人社員だから、期待してくれているに違いない……と。

馴染めない日々

研修期間を経て営業職に配属され、成績をあげようと必死で働きました。

「もっと仕事を任せてほしいです」「もっとこうしたほうがいいと思います」

でも、そういう考えは受け入れられませんでした。成績がよくなくても、目立たずに意見を言わないこと美徳だとされるのだことに気づきました。目立たないこと、上に意見しないことが、組織で生き残るために最も大切なことだったのです。

やがて、思ったことをはっきりと口にする性格の私は、組織の中で孤立していきました。

膨らむコンプレックス

気がつくと、自信に満ちあふれていた自分はいませんでした。褒められるためではなく、叱られないために頑張ることは、今までの生き方すべてを否定されているのと同じ。女子社員たちが声をひそめ、「リムって、変わってるよね」と噂しているのが聞こえました。

「個性的」という上司の言葉は、会社においては、存在してはいけないという意味に等しかったのです。私は次第に、人との関係を避けるようになっていきました。

トイレに駆け込んで、声を殺して泣くこともありました。

「こんなはずじゃなかった……」

人に会うのが好きで夢中になった営業の仕事もどんどん嫌になり、成績も下がっていきました。

自信満々で韓国から飛び出し、夢を持って日本に来たのに、毎朝目が覚めると、目が腫れてしまって、うまく開きません。

通勤電車の中でも、涙が止まりませんでした。でも、私を気にかけてくれる人はいません。満員電車の中で、みんな自分を殺しているかのように、スマホを見つめています。

大好きだった日本という国が、あのときの私には、とても恐いところに見えました。

そんな日々が2か月ほど続き、お医者さんに相談したところ、「休職するように」と告げられました。それは、生まれて初めての大きな挫折でした。

私らしさって…?

そんな絶望から救ってくれたのは、大学時代に知り合った日本人の友人からのメッセージでした。

「リムらしくないじゃん。もっと自分を大事にして」

それは前の日の夜、会社に馴染めないことを悩んだ末に送ったメールの返事でした。そのメッセージを見た瞬間、ふっと体の力が抜け、これまでの出来事が走馬灯のように駆け巡りました。

「すごい人になる!」と宣言して日本に来たはずなのに、自信をすっかりなくして、毎日泣いてばかりいる。友人にこう返信しました。

「私らしくって、なに……? 私、わからなくなっちゃった」

友人からは、すぐに返信がありました。

「たったひとりで日本で働いている。それだけでリムはもうすごい人なんだよ」

自分を押し殺していたものが、すべて溶け出るような感覚を覚えました。

「そうか。こうしてひとりで戦っていることが、すごいことなんだ」

今まで、苦手なことばかりに向き合いすぎていたかもしれない。ひとりでも、できることがある。私はそのまま会社を辞めることを決めました。

2か月で退社し、東京へ…

「自分の価値を感じられる仕事を探そう」

会社を辞めることを決意し、求人誌を眺めていると、東京での韓国語の翻訳者募集が目にとまりました。韓国語と日本語が操れることは、自分の強み。それを生かせる仕事だと思いました。すぐに東京の物件を扱っている不動産屋へ駆け込んで、住む部屋を見つけました。

東京で翻訳の仕事をしながら、どうやったらすごい人になれるかを考えました。会社や組織に依存せず、日本という異国で、たったひとりで生き抜くために必要なことは何だろう……。

そんなこと考えながら、何気なく開いた雑誌の中に「ミスコリア日本代表募集」の告知を見つけました。「ミスコリア日本代表」とは、韓国で行われるミスコンテストに、日本から出場する枠のこと。日本で働く韓国人である私が、韓国のミスコンに出場できたら……。これこそ「すごい人」に近づける、絶好のチャンスだと確信したのです。

会社では「空気が読めない」と、うとまれた私の言葉は、ミスコンでは「自己を確立している」と高く評価されました。そして日本でファイナリストに選ばれ、ベストドレッサー賞を受賞することができたのです。

それ以来、私は常に「自分の価値を感じられる場所」を探し続けてきました。挫折を経た今の私なら、何でもできるような気がしていたのです。

そんなとき、さらなるチャンスがめぐってきました。

それが「バチェラー・ジャパン シーズン3」のオーディションでした。

―後編へ続く―

【今回のゲスト】

李起林(イ・ギリム)

2017年ミスコリア日本代表に選ばれ、ベストドレッサー賞に輝く。その後、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に初の外国人参加者として出場。現在は、通訳・翻訳家の傍ら、女優としても活動している。

【筆者プロフィール】

毒島サチコ


photo by Kengo Yamaguchi

愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「MENJOY」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に参加。

【前回までの連載はコチラ】

妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち

「どうして私と別れたの?」元彼が語ったサヨナラの理由【第1話・前編】

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