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慰謝料とは?理由ごとの慰謝料の相場と慰謝料請求できる条件
並木まきM.Namiki
目次
隠す1:慰謝料とは?慰謝料請求した・されたことある?
「慰謝料」と聞くと、なんとも物々しいイメージですよね。
慰謝料とは、精神的苦痛・被害に対する損害賠償のこと。違法な行為よって精神的な損害を受けた人に対して、その原因を作った人が支払うお金です。
慰謝料を請求したりされたりした人の割合を調査すべく、筆者が20〜40代の男女10名に「慰謝料を請求した、またはされたことはありますか?」と聞いてみたところ、「ある」と答えたのは3名。
ひとりはフリーランスのシステムエンジニアで、業務内で発生したトラブル時に取引先から支払われた慰謝料、もうひとりは離婚の際に支払った慰謝料、もうひとりは交通事故のときに受け取った慰謝料でした。
2:慰謝料が請求できる条件は?3つ
正式に慰謝料を請求するには、法律的な根拠が必要です。そこで、アトム市川船橋法律事務所弁護士法人の代表弁護士である高橋裕樹先生に、慰謝料を請求できる条件を教えていただきました。
高橋:「慰謝料というのは、相手から不法な加害行為を受けて、精神的損害を被った場合に、相手に請求することのできる損害賠償のひとつです。簡単にいいますと“辛い”“嫌だ”“痛い”という気持ちに対する賠償金のことです。
この慰謝料請求は民法709条を根拠に加害者である相手に請求することができ、この要件は、①不法な加害行為によって、②損害を被ったこと、そして③消滅時効(請求できる期限)にかかっていないこと、です」
それでは、これら3つの要件について、もう少し詳しく教えていただきます。
(1)「不法な加害行為」って?
高橋:「まず慰謝料を請求することができるのは、①の不法な加害行為に対してのみです。例えば、そもそも浮気をしていない場合は加害行為がないということになりますし、正当防衛として反撃したような場合や、社会的意義のある表現行為の中で名誉を棄損するような表現があった場合などは、不法ではないということになり、不法行為にはならないことになります。
また、性格の不一致で離婚をするときでも、慰謝料を当然取れると思っている方がいますが、これは勘違いです。性格の不一致で夫婦関係が破綻してしまったというのであれば、それはお互いの責任。双方とも不法な加害行為は行っていません。離婚時の財産分与と慰謝料を勘違いしているのだと思います」
(2)「損害を被った」の考え方は?
高橋:「②の損害を被ったことについて、よくあるのが長期間別居をして夫婦関係が既に破綻に瀕している段階の浮気や不倫。
たとえ配偶者以外の異性と性的な関係を持ったとしても、それによって夫婦関係が壊れることにもならないし(既に壊れてるのだから)、精神的苦痛も被っていないというような場合は損害がなく、不法行為は成立しないということになります」
(3)「消滅時効」の基準は?
高橋:「最後に③についてです。慰謝料請求権(不法行為に基づく損害賠償請求権)は、損害を受けたことと、その加害者を知ったときから3年しか請求できません。また、それらを知らなくても加害行為から20年経つと請求できなくなります。
この期間を過ぎてから相手に請求をしても、「消滅時効にかかっているから支払わない」となってしまうことになります」
3:慰謝料は何で決まる?理由ごとの慰謝料の相場
続いては慰謝料が話題にあがりやすいテーマについて、それぞれの相場を同弁護士にうかがいました。
(1)旦那の浮気で離婚する場合の慰謝料の相場
高橋:「これは本当にケースバイケースですが、浮気(不貞行為)をきっかけに離婚するような場合、慰謝料の相場は200万円前後だと思います。
なお、不貞行為というのは異性との性交渉のことを指しますので、単に手をつないだ、キスをしたという程度では不貞行為にはあたりません。
500万円、1,000万円という高額の慰謝料請求をしたいという依頼者もいます。また裁判前の請求ではそれくらいの金額の請求をすることもあります。しかし相手に拒否されて裁判になった場合、この水準の金額はまずとれないと思います」
(2)性格の不一致で離婚する場合の慰謝料の相場
高橋:「既に述べたように、性格の不一致は“お互いが相手と性格が合わないから結婚生活を続けていけない”というだけで、どちらも相手に対して不法行為を行ってはいません。ですので、慰謝料は0円です」
(3)事故でケガをさせた場合の慰謝料の相場
高橋:「事故が起きた場合、通常は加害者側に何らかの落ち度(過失)があるので、不法な加害行為ということができます。一方、過失がまったくない場合は、不法行為にはなりません。
この場合の慰謝料の相場については、通常は病院への入通院期間に応じて算定されます。どれだけ“痛かった”“辛かった”と言っても、入通院していない、もしくはほとんど通院・治療していないという場合、慰謝料はかなり低額になる可能性が高いです」
(4)DVで離婚した場合の慰謝料の相場
高橋:「DV(ドメスティックバイオレンス=家庭内暴力)は、加害者の暴行が不法な加害行為になることは明らかなので、慰謝料が発生します。
相場に関しては、DVにより夫婦関係が壊されているわけですから、基本的には不貞行為によって夫婦関係が壊された場合の慰謝料と同程度が基準になると思います。もっとも、DVによって重い傷害を負っているような場合は、その程度に応じて慰謝料も加算されていくことになります」
(5)婚約破棄の慰謝料の相場
高橋:「婚約の一方的な破棄の慰謝料は、離婚の場合の慰謝料よりも50~100万円程度だと思います。裁判例では、もっと少ないこともあります。
もっとも婚約破棄の慰謝料の場合、慰謝料を支払わなければならないような段階まで婚約関係が至っているのか、という点が多くの件で争われます。
例えば、単に“結婚しよう”という話をしていたという程度では慰謝料は発生しないでしょうし(付き合っていてフラれたというだけでは慰謝料が発生しないのと同じ)、単に同居しているというだけでも厳しいでしょう。
両親に婚約者として紹介されている、結婚式場を見に行っている、婚姻届に氏名等を記載している、同居が相当長期に至っているなどの事実があれば、その後の不当破棄に対して、慰謝料が発生する可能性があります」
4:浮気で慰謝料請求したい!証拠になるのは?3つ
続いては、浮気で慰謝料請求をする際の証拠について、同弁護士に詳しく教えていただきました。
(1)LINEのキャプチャ
高橋:「LINEは、浮気がバレるきっかけの王道といっても過言ではありません。画面のやりとりを見れば、性交渉があったかどうかがわかるケースが多く、相手の裸の写真や性行為中の写真などが記録されているときもよくあります。
“単なる言葉遊びだ”などと逃げられてしまうこともあるので、そのほかの証拠との合わせ技が必要なときもありますが、LINEのキャプチャが取れるのであれば、備えておいて損はないでしょう」
(2)ホテルや相手の自宅に出入りしている写真
高橋:「探偵や興信所に浮気調査を依頼した場合、出てくる写真は大体これですね。ラブホテルにふたりで入っている写真がある場合、言い逃れはまずできないと思います。
一般的なシティホテルやビジネスホテルの場合には、“部屋は別々”とか“食事をしていただけ”、また自宅に入っているという場合は、“ゲームをしていた”、“ご飯を食べていた”などという可能性も実際あるので、他の証拠との合わせ技が必要になることもあります。しかし準備ができるなら、あったほうがいい証拠です」
(3)本人の自白がある録音や書面
高橋:「不貞を疑わせるなんらかの証拠を突きつけた場合、相手が不貞の事実を認めることがあります。その際には、その会話内容を録音することや、不貞の事実を認める旨の書面を書かせることなどが有効です。
この書面に対して裁判などで“信用性がない”という判断がなされることはかなりレアなケースなので、作成させておくことにはかなり意味があります。
しかし、相手があとから“脅迫されて無理やり書かされた”と言ってくるパターンも多いので、書かせている状況も録画、あるいは録音しておきましょう」
5:内容証明でできる?慰謝料請求したいと思ったら…
慰謝料を請求したいと思ったときに、どうすべきかを同弁護士にうかがいました。
高橋:「一般の方々がよく口にする誤解のひとつに、内容証明郵便で慰謝料請求すれば、相手は支払うというものがあります。
弁護士の立場からしますと、内容証明郵便と普通の郵便に、法律的な意味での違いはありません。つまり、内容証明で請求すれば相手に払わせられる、というのは誤った期待ということになります。
弁護士が請求に内容証明郵便を利用している理由は、単に慰謝料請求の手紙が相手に届いた日を証拠に残すことができるからです。普通郵便だと、何月何日に請求書が加害者側に届いたかがわかりません。しかし内容証明の場合、届けた日を郵便局が記録し、送り主に通知してくれますので、そのためにこの制度を使っているのです。
あとは実際のところ、弁護士から内容証明郵便で慰謝料請求が来ると、びっくりしてお金を直ちに支払うと言ってくれる人もいるので、こういった効果を期待して、内容証明郵便で請求するということをすることもあると思います」
6:慰謝料請求されたら?
慰謝料を請求されたらどうすべきかについても、同弁護士にうかがいました。
高橋:「まったく身に覚えがなければ放置でいいと思いますが、心当たりがある場合や、こちらにも言い分がある場合、そしていきなり裁判を起こしてきたような場合は、直ちに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に、“法律的に相手方の請求が認められる可能性があるのか”、“請求されている金額は妥当なのか”、“裁判対応をすることのメリットとデメリット”などを聞き、状況を正確に知る必要があると思いますので、まずは一度ご相談に行くことをおすすめします」
7:「慰謝料」は平穏な生活と隣り合わせ!?
慰謝料なんて自分とは関係のない世界の話だと認識している人も多いでしょう。
しかし、婚姻に関するトラブルや交通事故、仕事のトラブルなどにより、ある日突然、自分の身に深く関係するワードになる場合もありえます。
もしも自分が慰謝料を請求する・あるいは請求された立場になったときに、正しく対応できるよう、知識をもっておきましょう。
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取材協力高橋 裕樹弁護士
- アトム市川船橋法律事務所弁護士法人 代表弁護士。岩手県盛岡市出身。2008年(平成20年)弁護士登録。千葉大学法経学部法学科卒業。