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くすぐったいのはなぜ?「くすぐり」に隠された意味とくすぐりが効く体のパーツ
平松隆円R.Hiramatsu
1:くすぐりとは?
ところで、そもそも「くすぐり」とは、一体なんなのでしょうか。
(1)くすぐりの意味
くすぐりの意味を調べてみたところ、下記のとおりでした。
擽り(読み)クスグリ
1 くすぐること。
2 演芸・文章などで、ことさらに観客や読者を笑わせようとすること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「くすぐること」と書いてあるのですが、これでは理解が進みません。ということで「くすぐる」についても調べてみました。
くすぐる
1 皮膚の敏感な部分を軽く刺激し、むずむずして笑いたくなるような感じを起こさせる。
2 人の心を軽く刺激し、そわそわさせたり、いい気持ちにさせたりする。
3 演芸・文章・会話などで、人をことさらに笑わせようとして、こっけいなことを言ったり、演じたりする。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
今回のテーマからすると、皮膚の敏感な部分を軽く刺激し、むずむずして笑いたくなるような感じを起こさせるというのが、くすぐりの意味といえます。
(2)くすぐられるとなぜくすぐったいの?
では、なぜ「くすぐられる」と「くすぐったい」のでしょうか。いくつかの研究を見ていると、生まれたばかりの乳児(赤ちゃん)は、くすぐられても、くすぐったがることはないといわれています。
乳児がくすぐったがるようになるのは、だいたい生後6か月以降のようです。そして、科学的にはくすぐったくなる仕組みは、わかっていないようです。
(3)くすぐりの英語表現は「tickle」
ちなみに、くすぐりは英語で「tickle」。誰かをくすぐるときに「こちょ、こちょ、こちょ」なんていいますが、これを英語で表現すると「Tickle, tickle, tickle」。くすぐられて「くすぐったい!」というときは、「That tickles!」であらわすことができます。
2:くすぐりは不快でしかないはずなのになぜ笑うの?
誰かにくすぐられたときは、思わず笑ってしまうのと同時に、くすぐったくて身をよじるという人は多いでしょう。専門的にいえば、笑いという陽性感情を引き起こすと同時に、くすぐったいことを避けようとする陰性感情を引き起こしているわけです。
わかりやすくいえば、気持ちいいとはいえないけど、不快とまではいえない微妙な感情です。では、いったいどうして、そんな気持ちになるのでしょうか。
(1)くすぐりが遊びだから
乳児がくすぐったがるようになるのは、だいたい生後6か月以降のようだと紹介しましたが、多くの人は乳児のころ、最初にくすぐられるという経験をしています。
つまり、大人と乳児の「くすぐり遊び」が最初なのです。そのため、わたしたちは無意識のうちに、くすぐられるという行動を遊びとして考え、「相手はわたしと遊んでくれようとしているんだ」と理解し、不快な気持ちをおさえるのかもしれません。
(2)コミュニケーションのひとつ
乳児を観察した研究によると、乳児は実際にくすぐったいから笑うというよりも、母親の顔とくすぐる手を交互に見て、予期的にくすぐったがることがわかっています。
簡単にいえば、実際には触れていないのに、「こちょ、こちょ、こちょ」というだけだったり、くすぐるような動作をしたりするだけで笑ってしまうのは、くすぐられることで笑うものだと理解しているからです。
つまり、くすぐるということが言葉を使わないコミュニケーションの方法であることを意味しています。
(3)相手を信頼しているから
同じようにくすぐられても、その相手が初対面の人や嫌いな人だったら、笑いませんよね。それは、相手のことを知らなかったり、好きじゃなかったりして緊張して警戒しているから。つまり、信頼している相手からのくすぐりじゃないと、人は笑わないということになります。
(4)明るい雰囲気があるから
進化論で有名なダーウィンは「The expression of emotions in animals and man(人及び動物の表情について)」という1872年に出版した本で、くすぐられることについて書いています。そのなかで、人がくすぐったくて笑うためには、いくつかの条件があることを示しているのですが、そのひとつが明るい雰囲気。
くすぐることはコミュニケーションと紹介しましたが、くすぐって笑わせてやろうという相手の意図と、笑わせようとしているんだと理解できる明るい雰囲気がないとダメということになります。
(5)自分でくすぐっていないから
同じ体の部分をくすぐっても、人にくすぐられると笑ってしまうのに、自分だと平気ということはよくあります。これまで見てきたように、くすぐりに対して笑いが起きる理由には他人が関係しています。つまり、くすぐったくて笑うためには、誰かにくすぐられないとダメなんです。
3:くすぐりが効く体のパーツ3つ
くすぐることの研究はいくつかあるのですが、残念ながらどこがいちばんくすぐったいのかという研究はありません。そこでいくつか、仮説を立ててみましょう。
(1)足の裏
いくつかの研究において、くすぐるときの体のパーツは、たいてい足の裏です。なので、足の裏がくすぐったいことは間違いないでしょう。
(2)首筋
滅多に人に触られる部分ではないため、どんな刺激(感触)か想像しにくく、また相手との信頼関係がないと触らせることがない体の部分。なので、くすぐったくなる可能性が高いといえます。
(3)脇
くすぐる部分の代名詞である脇。これも足の裏と同様に、鉄板なくすぐったい部分でしょう。また、先ほどの首筋も含まれるのですが、首、脇の下、肋骨、太ももなどの内側は、外からの刺激にもっとも弱いといわれるパーツです。
そうした場所を触られて笑うのは、自己防衛のため進化のメカニズムが関係している、そんな説もあるようです。
4:まとめ
くすぐったいというのは、たんなる皮膚への刺激というのではなく、相手との関係性も重要なのかもしれませんね。