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太夫の意味と読み方は?遊郭の太夫が見られる映画や歌舞伎などの太夫について
水野 文也F.Mizuno
1:太夫の意味や読み方は?太夫の由来と花魁との違い
テレビや映画の時代劇を見ていると、よく「○○太夫」と呼ばれる美しい女性が登場します。この「太夫」というのはどのような意味なのでしょうか。
太夫は、芸事のサービスを行う芸妓(げいぎ)や遊女の最高位の呼称で、一般的に「たゆう」と読みます。
芸妓か遊女かは、サービスに性行為を伴うか否かで区別することができます。歴史的にみると、有名な「静御前」のような白拍子(しらびょうし)や、傀儡子(くぐつし)と呼ばれる人形使いなど、芸能を職業とする女性が古くからいましたが、これらがやがて性を売る「遊女」と、芸能に秀でた「芸妓」に分かれていきました。
やがて、太夫は遊女の最高職階として使われるようになったものの、18世紀以降になると、江戸に太夫はいなくなりました。その代わりに高級遊女を指す言葉として登場したのが「花魁(おいらん)」という言葉です。
2:美しいだけじゃない!遊郭の太夫についてわかる映画やドラマ
(1)才色兼備の超一流の女性
太夫であれ、花魁であれ、大名などの地位の高い人を相手にするには、美しいだけでは務まりませんでした。高い教養と高度な芸を身に付けた、才色兼備な超一流の女性でなければいけません。そのために彼女たちは、15歳くらいまでに舞踏、三味線などの芸事はもちろん、和歌、お茶、お花などの教養を身に付けていました。
美貌と教養の賜物か、太夫ならずとも、一流の芸妓は大名の側室になるケースも。明治維新の英雄である伊藤博文や板垣退助の夫人も、芸妓出身でした。
(2)忠臣蔵の浮橋太夫
映画やテレビドラマで有名な太夫と言えば、大石内蔵助が昼行灯を演じて油断させるために一力茶屋で遊びほうけていたときの相手である「浮橋太夫」がいるでしょう。その様子は映画『忠臣蔵』やNHK大河ドラマ『元禄繚乱』などで描かれていました。
その他に、時代劇でよく名前を見かけるのが「吉野太夫」「夕霧太夫」「高尾太夫」の、俗にいう「寛永の三名妓」。これらは名跡(みょうせき:代々受け継がれる個人名)となっており、高尾太夫は吉原の三浦屋の大名跡として11代目まで続いたとか。一方、高尾太夫は伊達騒動の発端となった伊達綱村による身請け話でも知られています。
(3)現代の太夫
実は、現代にも太夫はいます。2014年に京都の島原の太夫としてお披露目をした「葵太夫」がその人。アイドルや声優としても活躍していましたが、昔ながらの修行を積んで正式に太夫となったのは、50年ぶりのことでした。
3:能や歌舞伎の太夫
能や歌舞伎の世界でも、太夫という言葉はありますが、意味は芸妓や遊女のそれとは異なります。
(1)能楽の太夫
能楽の場合、古くは「シテ」の尊称として使用されていましたが、現在では使われていません。今は猿楽座や勧世流家元の「観世太夫」のように、流派の長を指す言葉として使用されています。
(2)歌舞伎の太夫
歌舞伎の場合も、一座の座元を指す言葉として使われ、座元の跡継ぎを若太夫と称します。加えて、歌舞伎は出雲阿国が活躍した初期のころ、遊女歌舞伎のスターが幸若舞(こうわかまい:曲舞の一種)の太夫から引き継いだと考えられることから、女形のトップスターの尊称として使われています。
また、歌舞伎の太夫で有名なのが、「仮名手本忠臣蔵」に登場する「斧九太夫(おの くだゆう)」。歌舞伎における忠臣蔵の敵役としておなじみです。
(3)浄瑠璃の太夫
浄瑠璃における太夫とは、音曲を語る者を指していて、女性には用いません。浄瑠璃の創始者である竹本義太夫が有名です。
4:まとめ
太夫についてまとめている中で、筆者の頭に浮かんだのが、現代のホステスです。銀座や北新地の高級クラブのナンバーワンホステスともなると、美しいだけではなく、高い教養を備えていると聞きます。
中身も磨かないと評価されないのは、いつの時代でも変わらないようですね。